『鉄血のオルフェンズ』のスピンオフ作品として制作されている『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』。アプリで楽しむことができる作品として、長井龍雪監督をはじめメインスタッフが再集結し鋭意制作中です。そんな『ウルズハント』の展開に先駆けて開始されたリレーインタビュー企画第4回は、作品のシリーズ構成を手掛ける鴨志田一さんのインタビュー完結編です。
ゲーム業界とアニメ業界を共に経験されている鴨志田さんから見た、『ウルズハント』の可能性についても伺いました。

「アニメーションを長くしたい」と言われたはじめての作品
『ウルズハント』の作業の中で、難しかった部分はありますか?
難しかったというか、僕はゲームのシナリオを書いていた時期があるのですが、「アニメーションシーン、ちょっと尺足りないのでもう少し増やせませんか」と言われたのは今回が初めてでしたね(笑)
ゲームという媒体では珍しいことですよね。
ええ。通常であれば、「削りたい・少なくしたい・減らしたい」というような言葉を容赦なく投げかけられるものなんです(笑)。それが、「増やしたい!?」と。
(笑)。
それが今回の作業の中で一番インパクトがありました。という部分を踏まえても、今回は物語の中で描き切れるだけの尺を頂いているんです。モビルスーツ戦も、1機1機の登場シーンにきちんと尺を割けていますし、活躍する場面をしっかりと描けています。こんなにたっぷり書いて大丈夫だろうかと思えるほどに(笑)。
もちろん尺は違うにしても、1話にかけるシナリオのボリュームはTVシリーズよりも多いそうですね。
はい。そしてコンテになるとさらに長くなる(笑)。もう一つ、メディアが違うことによる違いとしては、TVシリーズのときに提出していた脚本のテキスト形式と、今回のアプリで書いている脚本のテキスト形式はガラッと変えているんです。
テイストや書き味を変えているというお話は前編でもありましたが、それだけではないんですね。
アニメ側でよく使われている脚本の形式だと、ゲーム側は仕様上、そのまま使えないんですよ。なので、今回は最初からゲーム側も使いやすいようなフォーマットで提出しまして、今でもそれは踏襲されています。
全体の構成はもう決まったのでしょうか?
そうですね。全体の話の区切りはすでに決まっていて、作業を始めた当初から大きくずれてはいないです。ただ、その1個1個のボリューム感に関しては、想定の倍ぐらいになりました。最初、「あれ、良いのかな?」と思いながら書き進めていたのですが、誰も止めないんですよ。普通はゲーム側の人が止めに来るわけですけど、今回の藤原(康則)プロデューサーは、止めに来ない(笑)。
藤原さんにインタビューしたときも、「物語をしっかりと紡いでもらいたいので、長くても良い」という話はされていました。
でも、長く尺を作るのはそれはそれで大変なんですけどね(笑)。
そういう意味では、既存のジャンルに括ることができない、新しい形になっていきそうですね。
単なるアニメーション作品ではないですからね。なので、シナリオに関わらせてもらっていますが、ちょっと不思議なものを作っている感覚はあります。
ガンダム作品は、放送から時間が経過しても作品を広げていくことができる
鴨志田さんが、『ウルズハント』で挑戦していることは何でしょうか?
そうですね……メカアクションの部分に関しては、1機1機、見得を切れるような見せ場を入れたいとは思っています。TVシリーズのときも、戦闘シーンを書く機会がかなり多かったので、メカアクション好きの僕はだいぶ楽しませて頂きました。それでも書けなかった機体もあるので、こうやってじっくりと書かせてもらえる場所があるというのは僕個人としてもありがたいですし、楽しいです。
なるほど。
あとはTVシリーズに比べると、もう少し活劇っぽいといいますか、明るい少年の物語になっているので、そこの部分でひとつ筋が通る物語になったらいいなと思いますね。
鴨志田さんはTVシリーズから含めて、『鉄血のオルフェンズ』という作品に長く関わってこられましたが、作品全体をどのように捉えられていますか?
TVシリーズの放送が始まったのが2015年10月で、もう4年も前の話になるわけです。それだけの時間が経った今、スピンオフ作品を新たに進めている――その事実自体が、ガンダムシリーズに関わるということなんだと実感しています。しかも短編ではなくて、かなりのボリュームのものを作ろうとしているわけじゃないですか。時間が経過しても作品を広げていくことができる、そんなガンダム世界の枠の大きさを改めて感じましたね。
長井監督は、アニメーションとゲーム制作の違いを理解してくれている
TVシリーズの開始当時と今では、作品に対する取り組み方も違うのでしょうか?
そうですね。やり方が変わったわけではないですが、当初はすごく緊張していたのを覚えています。ただ、だんだんとスケジュールが大変になっていったので、緊張どころじゃなくなりましたが(笑)。TVシリーズが一旦完結して、少し時間が経ったあとに『ウルズハント』の話を頂いたわけですが、まだ“僕でいいのかな?”ってそわそわした気持ちもあります(笑)。
そういう意味では、『鉄血のオルフェンズ』ではかなり長い間、長井監督と作業をご一緒されているわけですね。
そうですね。今、『ウルズハント』の作業をご一緒していて思うのは、長井監督がメディアの違いを理解してくれていることですね。アニメーションのときはご自身で絵を動かすことを想像しながら物語を構想していたと思うんです。ただ、今回はゲーム画面で見せる別メディアであるということを、長井監督がちゃんと切り替えてくれているので非常にやりやすいです。
具体的にはどのようなところでしょうか?
僕はゲーム業界とアニメ業界を渡り歩いている立場なのでわかるのですが、アニメーションを作る人間とゲームを作る人間では、作り方から考え方までかなりギャップがあります。両者を混ぜると、それぞれの業界の常識が話の根本にあるため、かなりの確率で意思疎通がうまくいかなくなって、結果双方にストレスが溜まるんですよ。例えば、立ち絵が中心のゲームでは、アニメーションと比べてできることが限られていますから、「こう動かしたい/演出したい」と言われても、「できません」と返すことが多くなる。キャラクターの仕草みたいなものも、ゲームでは繰り返し利用できるように記号っぽく表現したりもしますので。長井監督は、そうしたメディアの違いをきちんと認識した上で切り替えていただけているので、ゲーム側のスタッフさんもやりやすいのではないかと思います。
ゲームとアニメーションが連動した作品のひとつの成功例になれば
アニメーションも、TVや劇場公開だけでなく、こうしたアプリや配信もどんどん増えてきました。
こういった形は今後もさらに増えそうですよね。もちろん40年続いているガンダムシリーズは、TVシリーズや劇場を大切にするという方針も、そうそう変わらないとは思いますが、一方でスマホアプリというのは大きな可能性がありますよね。アプリを通して、良いと思った作品にダイレクトに応援が行えるような環境は、アニメーション制作にとってもひとつの未来かもしれません。
脚本やシリーズ構成としてアニメーションやゲームに携わっている鴨志田さんからすると、そういったメディアの複雑化はどのように捉えているのでしょうか??
僕はありがたいことにもともとゲーム業界出身で、ゲームは仕様がタイトルによって変わるので、それに合わせて書き方もガラッと変わるんです。そんな業界にいたので、『ウルズハント』も特に苦になっているわけではないです。ただ、今後はより媒体との向き合い方が変わると思うので、僕らもある程度は対応していかなければならないなと思っています。
今回の『ウルズハント』で特に注目してもらいたい部分、楽しんでもらいたいポイントなどありますでしょうか?
TVシリーズは鉄華団を中心に描いていたので、その界隈にいた、わりと尖がっている人たちにスポットが当たっていました。今回の『ウルズハント』では、それ以外の場所にいる様々な勢力、様々な環境、そしてその中で奔走する人たちを描写したいと思っています。「この世界には、いろんな人たちがいて、頑張って生きているんです」というのを、ウィスタリオを通して感じていただける物語になればいいなと。TVシリーズをご覧になられていた方は『鉄血のオルフェンズ』世界の広がりを体感できると思いますし、『ウルズハント』で初めてこの世界に触れた方々にも、個性的なキャラクターたちをまずは楽しんでいただければと思います。
最後に、鴨志田さん自身が今回のアプリで楽しみにしているのはどんなところですか?
長尺のアニメーションがどのような魅せ方になるのかは単純に楽しみです。アプリの中で、ゲームとアニメーションが強く連動してひとつのパッケージになることを期待しています。『ウルズハント』のような方式のアプリには僕自身、すごく可能性を感じているので、その成功例になれば嬉しいなと思っていますね。